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日本ブラインドサッカー協会が運営する、ブラインドサッカー体験プログラム「OFF T!ME」のブログです。ブラインドサッカーで培ってきたものが、コミュニケーション、チームビルディング、ダイバーシティ理解に効果をあげています。

「非言語系研修」という人材育成の新たなトレンド:曽和利光さんが語る「ロジカルシンキング」の罠

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「人と組織が持つ可能性を最大化する」をテーマに掲げる株式会社人材研究所の曽和利光代表取締役と、日本ブラインドサッカー協会の松崎英吾事務局長が対談。ブラインドサッカーの体験型ワークショップ「OFF TIME」を題材に、ビジネス研修のトレンドや、能力開発としての「非言語系研修」の可能性などを専門家とともに掘り下げる。

 

「間違った認識から始まった正しい論理」は間違いになる

 -2月のスタートから半年。日本ブラインドサッカー協会が提供する「OFF TIME」に来てくださる企業の人事や研修の担当者が増えています。曽和さん自身「OFF TIME」を経験してみて、どのような印象を抱かれましたか?

 

曽和:「やっぱりフィジカル系って威力すごいな」という感じですね。我々の会社で提供しているレゴ(レゴ・シリアスプレイメソッドという研修プログラム)は、まだ穏やかな、じわじわ来るみたいな感じなんですけど、ブラインドサッカーのOFF TIMEって、恐怖があったり、エモーショナルな部分に対してのインパクトがすごいですよね。

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松崎:企業研修の参加者などでも、始めは、何をやらされるんだろう、ブラインドサッカーって何だよ、障がい者スポーツかよ、みたいなところから入る方もいたりします。そこから、いろいろな感覚を味わって、変わっていくように思います。

 

-そのような感覚で味わう研修へのニーズの高まりなどはあるんでしょうか。長く研修の開発に携わってきた曽和さんが感じている時代の変化を話してもらえますか?

 

曽和リクルートにいた時(1995~2009年)も社内の教育体制をつくることを結構やっていました。あの頃はまだ、言語系のセミナーもあまり体系化されていなくて、ロジカルシンキングやMECEがどうということでも、齋藤嘉則先生や(コンサルティング会社の)マッキンゼーの人とつくっていたんです。組織戦略の高橋俊介さんであったり、楠木建先生とイノベーションや新規事業開発をやるとか、言語系の研修が当時は黎明期だったんです。

松崎:今でも有名な超一流の方々ですね。

 

曽和:それが今では、誰でもロジカルシンキングを知ってるし、元マッキンゼーとか、元ボストンコンサルティングみたいな人たちが世の中に散らばって、世の中全体の言語系のフレームワークを使って物を見る、分析するやり方はけっこう底上げされました。

ただその副作用として、言語で整理される概念的なもの以外はないという弊害も出てきているんじゃないかなと。例えば、「きれいに間違う」という言葉があります。戦略コンサルタントの人が来て、フレームワークによって曖昧な現実、リアルを捉えると、整理棚を作ってわかりやすくすると同時に、同じ物の見方しかできない、あるいはその枠組みのなかでちょっと漏れ出てくるようなもの、兆しに対しての感性はちょっと鈍くなっている。そんなことが、結構起こっている気がします。

「間違った認識から始まった正しい論理」を進めていくと、結論って間違うじゃないですか。それが「きれいに間違う」になるわけです。

松崎:なるほど。

 

曽和:左脳的、言語的、意識的なところに、ビジネスの世界での頭の使い方が偏ってしまっていて、結局、見立ての誤りや、あるいは兆しが見つけられない。だから、いろいろな問題が起こっている。

それを補完するのが、ブラインドサッカーのOFF TIMEや企業研修だったり、弊社がやってるレゴ・シリアスプレイメソッドとか、ダイアログ・イン・ザ・ダークの研修とか、インプロヴィゼーション(即興)研修だったりとか、僕が非言語系って呼んでいる領域なんじゃないかなって気がするんですよね。

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「研修慣れ」する社員、予定調和に陥る言語系研修

松崎:そのあたりで、人事ご担当者様レベルでいくと課題感って醸成されているんですか?

 

曽和:そろそろ来ている感じがしています。弊社で毎月、レゴシリアスプレイメソッドの無料体験会をやっているんですけど、そろそろ100社に達します。商社や金融、経団連に入っている大企業やメガベンチャーさん、そういう影響力のある会社に興味を持っていただいているというのが、一つの兆候としてあります。

なぜかな、とアンケートをとったり、目的を聞いたりすると、いわゆる言語系には“研修慣れ”してきている感じがあるんですね。何が正解かということがすでになんとなくわかっていて、その場でグループワークで本音をしゃべっているように見えても、実はその場の“社会的望ましさ”に合わせている。ポジティブな発表が本音かって言ったらわかりませんし、そんな予定調和の中に新しいものはできてないわけで、それでは最初からやる必要ないと思うんですよね。

松崎:確かに。

 

曽和:ところが、ブラインドサッカーやレゴなどの非言語系だと、研修ずれした社会的望ましさ、みんなが期待していることに合わせられないようになる。

非言語系のことって、これをこうしたらどう評価されるかということは、まあ、わからないですよね。自分でも何かわからないみたいなことでやっているので。防衛本能みたいなことを全部取っ払ったところで話ができるわけですよね。

例えば、取締役とか偉い人に対する研修というのは、社内政治もありますし、駆け引きとかがあったりして、ボロを出さないようにお互いけん制しながらやる時があります。そのような壁のある人たちに、非言語系の研修をやると、それが相互理解につながって真の理解につながるんですよね。 

松崎:それ、ものすごくよくわかります!

 

最終的に差がつくのは「アート」の分野

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松崎:人事担当者レベルからすると、経営層とか職位のある方が言語系と非言語系のバランス感覚を持つこと、という課題感を持ちにくいのかなっていう気がします。

 

曽和:そうですね。新人で入ってきたら、まずはロジカルシンキングとか、きっちり言語系のフレームをある程度までキャッチアップして来なさいということになるので、非言語系に関してやるという感じではないです。特に日本の企業は、オペレーションの力で勝ってきた会社が多いので、中堅以下の能力開発、キャリア開発が育成の中心だったわけです。 

松崎:そうですね。

 

曽和:ですけど、今って、そうじゃないです。次世代リーダー育成、卓越したリーダーをいかに継続的に切れることなく生み出していくのかが企業の競争力強化につながると考え、かなり上の方の人のキャリア開発や能力開発になってきています。

そういう時に、いわゆる経営幹部に近い人たちが左脳的、言語的、意識的なフレームワークに寄ってしまっている。ある特定の勝ちパターンに最適化してきたから出世しているわけで、そっち側に寄っている人が増えていると感じるんですよね。だから、まだ情報が足りない中での意思決定とか、あるいは陳腐化してきた勝ちパターンを外れて、新しいものを出していかなければならない時に、違った力を身につけていなくてはならない。

松崎:なるほど!

 

曽和次世代リーダー育成とか役員研修とか幹部研修になればなるほど、むしろ非言語的な能力を欲しているニーズというのをよく聞くんですよね。

松崎コンサルティング会社の方々に会った時に、マネージャークラスとシニアになる人たちの間に、大きな隔たりを感じました。皆さん、すごくロジカルで、スマートで頭も切れるけど、シニアになる人たちは全然違う雰囲気だなと。この雰囲気って何なんだろうと思った時に、今言っていただいたようなアート的な部分だなと思います。

 

曽和:ダニエル・ピンクが著書『ハイ・コンセプト』で言っていたと思うんですけど、今、マッキンゼーとかでもMBAホルダーももちろん取っているんだけど、最近はMaster OF Fine Artsを持っている人を採用したりしているそうです。

結局、みんなのレベルが上がっちゃったので、左脳的なところでは差がつかないんです。基本的に、データや計算は、同じ手法を使って、同じ分析をすれば、同じ結果が出てくる。昔は分析の仕方にうまい下手があったけど、今は全体が底上げされた。

結局、差がつくところはやっぱりアートの部分ですよね。

 

非言語研修がブレークするためには?

松崎:非言語系研修が需要喚起されてる背景は、よくわかりました。ただ、勉強不足で申し訳ないのですが、非言語系研修は全体的に盛り上がっているんでしょうか?

 

曽和先進的な人々の中で起こっているだけであって、まだ一般的にはブレークしてない。いくつか問題があると思っています。

まず、人事担当者がこれを理屈で説明できない。心理学など背景にあるものがあまりよくわからずに、子供の遊びみたいだなと思ってしまう。「それで何がわかるの?」と上の人に言われたら、ロジカルに説明できない。あとは、研修効果の測定で、非言語系の場合、より工夫しないと結果が「面白かった」で止まってしまう。何が変わったか、どこに力がついたのか、売り上げに貢献したか、というあたりの開発は、我々の会社を含めてもできていない部分がある。

それから、研修を提供する側に手法にこだわる人が多い。受ける側は、何か解決したい課題があって、その解決に適切なものを考えて、あとは会社の文化やテイストに合わせて、レゴがいい場合もあれば、ブラインドサッカーがいい場合も、他がいい場合もある。提供する側が、自分の得意なものですべてのことを解決しようとしがちだなあと。もうちょっと手を取り合ってというか、「マッピング」のようなものがあれば…。

松崎:この課題に対して、この解決策というマッピングですよね。

 

曽和:僕らが作らないといけないかもしれませんけど…。言語系の研修だったら、こういう課題なら、こういう知識やスキルをインプットすることによって、一部解消されます、という提案をしてくれる会社があります。一つの非言語系の研修に興味を持っている人も、他のを知るというのがあるといいと思います。互助組織、アライアンスというか、志ある者同士が提携して、お互いに紹介したりできるといいですよね。人事の側からみると、診断方法とその処方箋が明快になっていったら、ブレークする気がしているんですよね。

松崎:今度、何か一緒にやりたいですね! 本当に。

 

 OFF TIMEの威力は、あえて言葉にしない。“積極的思考停止”を

松崎:曽和さんのところでOFF TIMEをやった時は、見えないでボール追っかけるものとか、あと、お互いの声掛けの中で関係性が変わらないと回数伸びないというワークでしたね。

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曽和:「怖い!」って本能から入るので、動物的なところに働きかけてますよね。レゴは手は動かしますけど、まだ理知的にやっていく感じ。ブラインドサッカーは「非言語で無意識」というか、何が起こったかって聞かれると、なんか言えないんです。なんかわからないんだけどスッキリした、とか、そんな感じになっちゃうんですよね。インパクトがあって、なんかわからないんだけど、周りの人との間のコミュニケーションの壁が取れて仲良くなるっていう感じなんですよね。

松崎:いやぁ、まさに! 感じたことやそこで現れたことをすごく言語化しにくいんですよね。振り返りをかなりじっくりやっても、なかなか出てこなかったり、実はこういうこと感じてるのに、それが言語化できなかったり。

 

曽和もしかしたら、ブラインドサッカー研修をやった後に言葉にすると、「言葉にすると全部うそになる」。J-POPの歌詞みたいですけど。言葉に置き換えると、むしろ死んじゃうっていうんですかね。その経験、体験が。

松崎:自分たちが提供している研修って、導入の担当者がどこを腹に落としたいのかを突き詰めれば突き詰めるほど、安っぽい感じになるんですよ。終わった後に、「あれ、やりたかったことって、こういうことだっけ?」と。せっかくこの人はこんな風に感じてくれてるのに、無理にこっち引っ張ってきてもしょうがない。やっぱり非言語的体験のいいところって、感じ方が多様だったりすること。

 

曽和:ワインを飲んで、もう四の五の言わずに「うまいな」って思って飲んでいればいいのに、ウンチクの方に意識がいって、「いや、そんなところじゃなくて、もっと味に集中しろよ」みたいな世界ってあるじゃないですか。

松崎:すごくいい例ですね、それ。そう意味でいうと、非言語で得た気づきや学びとか体で得たものって、どうしたらいいんですかね。

 

曽和:非言語で影響を受けたものを測ろうとすると、例えば、気分はどうですかとか、ストレス値をはかったり直接的にここで経験したものが何で、どう変わったかだけを何らかの指標で考えるとか。間の理屈は置いといて、結果として得たい部分の指標を直接的に測ってしまう方がいいような気がします。なぜかわからないんだけど、ブラサカやったらストレス値が減った、証明されますというような。

松崎:以前、幸福学を研究している先生に体験頂いた時に「ブラサカはもう幸福学のスポーツだ」と言われまして。これをやったら幸福になりますというのを証明できるみたいな。

 

曽和:そう。それでいいと思うんですよ。ロジックじゃなくて、機能的に説明したらいい。「データをたくさんとるとこうなってます、以上」みたいな。謎だらけじゃないですか、人間の体なんて。なんだかわからないけど、何度繰り返しても同じ結果が出るなら、「やってみよう」となると思うんですよ。

松崎:なるほど。

 

曽和:例えば、入社3か月目で結構ストレス値が高まるという課題を持っている組織に対して、じゃあ新人3か月目でブラサカの研修を入れたら、必ず退職率が下がったり、ストレス値が下がりますというものが実験データとして取れたら、それで証明になると。 

松崎:面白いですね。

 

曽和:フィジカルなので、ブラサカの適用領域ってそういうメンタルとかリテンションとか、セラピーっぽい感じがするんですよね。言葉にできれば少しはましかもしれないけど、できない領域に働きかけるというか、そこに働きかけないと治らないということは、根深い問題を持っているものに関して強いかもしれないですよね。

松崎:レゴでもOFF TIMEでも体験する人に、「やるなら、こういうマインドを持った方がいいよ」とアドバイス頂くとしたら、どういうことになりますか?

 

曽和:自分がよく何を考えてるのかという所にフォーカスする、内なる声を聴くって言い方もしますけど、そういう心持ちで望むとよい気がします。でも、あんまりやりすぎちゃうと解釈が始まっちゃうかもしれないので「Don’t think feel」とか、あ、「積極的な思考停止」のほうがいいかもしれませんね。

松崎:今日はキーワードがよく出てきますね。

 

曽和解釈しない、決めつけないってことです。「名前を付けると死ぬ」というのがあるんじゃないかな。無意識のムワァーとした曖昧なものに名前を付ける行為は殺す行為であると。

松崎:意外と、やりっぱなしというのも効果があることなのかもしれない。

 

曽和:ずっと、味わうってことです。ごはん食べる時、みんなやってることですよね。だから、ウンチクを語る人がいたら、まずくなるじゃないですか。

松崎:ビールの「のどごし」だね、僕らは。大事だけど、のどごしを因数分解してもしょうがないですからね。

 

曽和:そののどごしはホップがどうのというウンチクはいらないですよね。そんなこと考えて飲んでる人なんて、ほとんどいない。だから、体験自体に目を向けさせる方がいいってことです。

松崎:今日は、何かすごく宿題をたくさんもらったような気がします。曽和さん、ありがとうございました。

 

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興味を持った方は、まずはOFFTIMEを体験してみてください。

 ◯参加者の声

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9/11(木)15:00−18:00(振返会を含む)
9/11(木)19:15−21:00(終了後、懇親会が別途あり)
9/18(木)19:15−21:00(終了後、懇親会が別途あり)
9/25(木)19:15−21:00(終了後、懇親会が別途あり)
10/2(木)19:15−21:00(終了後、懇親会が別途あり)
10/16(木)19:15−21:00(終了後、懇親会が別途あり)
10/23(木)19:15−21:00(終了後、懇親会が別途あり)
10/30(木)19:15−21:00(終了後、懇親会が別途あり)

◯会場

新宿区新宿NPO協働推進センター(JR「高田馬場駅」下車徒歩10分)

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